人より優れていなきゃいけないと言う気持ちと、自分は人より劣っているという自覚
このふたつを同時に持っているぼくは、とんだ捻くれ者になった。
劣っている自覚があるから、人を見下すことでしか自分を認めることが出来ない かわいそうな人間だ。
なんだってそう。仕事だって恋愛だって趣味だって、全部何かを見下してる。
つまんねぇプライドをどうにかこうにか保つために。
哀れだ。
このご時世なこともあって、恋人が職を失った。
あんなに心の強そうな彼女が、消え入りそうな声で「ごめんね」と、何度も呟いた。丁度その日は、結婚の挨拶の日時を決めようと話していた日だった。
何度も謝る彼女を抱きしめた。僕の口角は少し上がった。様な気がした。
彼女が不幸になって、僕だけが彼女の救いになれたら。彼女が僕に縋ってくれたら。
いつかの願いが、空に届いたのかもしれないと思った。
彼女との結婚は、再来年に延期になった。それでもいい。
「ゆっくりでいいからね。自分のやりたい仕事を探してね。」と、優しさの無い言葉を彼女に贈った。
この間、僕は同僚に告白された。
もちろん結婚を前提にお付き合いしている彼女がいることを、同僚は知っている。
それでもいいと、その人は言った。
「もし彼女と別れたら、そしたら私と付き合ってください。それだけでいい。私、待っててもいい?」
断る理由は無かった。
彼女の貴重な20代を、僕が少しずつ食い潰している。
幸せになれるはずの未来を、僕がこの手で壊している。
その背徳感が、たまらなく愛おしかった。
哀れだ。
「醜い自己愛」という言葉がやけに似合う。
今日はそんな夜だ。