この街に置いていく
明後日引越し、実感/ZEROの心奏です。
という訳で、4年間ぐらい住んでた家を出ます。
と言っても同じ都内なので(電車で普通に行ける距離なので)、完全にめちゃくちゃ寂しい!!という訳では無いのですが。
それでもやっぱりなんだか、しんみりするものです。
家にあるものをゴミ袋に詰めながら、ふと、
(あの人とここにいた思い出も、捨てていくんだなあ)
と思いました。
元カノと過ごした日々。
この街に捨てて、新しい思い出で埋めよう。
なんて思いながら、燃えるゴミ袋を縛り終え、次は粗大ゴミ。
アルバイト先から貰った馬鹿でかいトロフィーを動かしながら、ふと、思い出す人がいました。
(あの人と働いた思い出も、捨てていくのか)
香澄さん(2020年3月の記事参照)のことです。
懐かしい名前に、僕はしばし片付けの手を止めました。
香澄さんは、バイトを辞めたあとも、ちょこちょこ飲み会を開いてくれていました。
それもきっと、僕が引っ越したら行けなくなるんだろうなぁ。
そうしたらきっと、あの人も、この街に…
そう思うと、なんだか、昔の思い出が蘇ってきました。
彼氏いない歴=年齢の香澄さんに、初めて彼氏が出来た日。
香澄さんは、僕に報告のLINEを送ってくれた。
「すごいじゃないですか!」なんて送りながら、本当は、少し苦しかった。
香澄さんの留年が決定した時。本当は、僕は嬉しかった。
あと1年一緒にいられる、と思うだけで、僕の生きる支えになった。
あなたがいないこの職場は、きっと僕にはつまらないから。
香澄さんが彼氏と別れた時。
「え〜!」なんて驚きながら、やっぱり、どこか嬉しかった。
香澄さんが独り身になったところで、僕は何も出来ないのに。
それでもやっぱり、僕は嬉しかった。
出勤最終日、お客さんが置いていった送別の手紙。
そこには歯が浮くような愛の言葉が、ビッシリ書き連ねてあった。
香澄さんは、笑いながら、それの名前を全部「心奏」にして読み上げてくれた。
気持ち悪い!なんて言ったけど、本当は、すごく嬉しかった。
嘘でも、僕に好きと言ってくれたから。
…なんて思い返してるうちに、僕はあることに気づきました。
元カノの写真は全部消したのに、香澄さんの写真は全部とっておいてるな、と。
香澄さんの写真も、香澄さんが撮ってくれた僕の写真も。
(そうか、)
やっぱりあれは、気の迷いなんかじゃなかった。
(彼女がいた僕は、必死に理由をつけていたけど、)
やっぱり僕は、香澄さんが好きだった。
(取り繕う必要がない今、分かるのは、)
やっぱりあれは、
(やっぱりあれは、)
叶えなかった、恋だった。
(紛れもなく、恋だった。)
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元カノへの配慮をしなくて良くなった今になって、ようやく、あの時の気持ちを受け入れることが出来た気がします。
あれは紛れもなく、僕の人生で1番の恋だった。
元カノよりも、香澄さんに恋をしていた。
陳腐な表現だけれど、本当に、甘くてすっぱい恋だった。
そう受け入れて初めて、この恋が「終わった」ような気がしました。
あなたと働いた日々も、伝えなかった気持ちも、もう訪れない未来も、全部。
――全部、この街に置いていこう。