みかにっき

ただの僕の日記です。

偽りの救いを捨てた先

「誰かにこの思いを分かってほしい」

 

僕が何かを作り出すときは、須く、この気持ちがどこかに挟まっている。
それはどんな媒体でもそうだ。
漫画、TRPGシナリオ、ブログ、脚本…あと何かあるかなぁ。

 

その「思い」とやらの種類は種々ある。
素敵だ、好きだ、愛しい、悲しい、腹が立つ…。

とりわけ、その中でも筆が進むのは、「悲しい」「腹が立つ」などの、ネガティブな感情の場合である。

僕はこんなに辛い想いをしました。僕はこんなに腹が立つことを言われました。どう思いますか?
と、作品を通して、読者に訴えかけたいのだ。多分。
僕の抱く感情は正しいですか?醜いですか?美しいですか?
と、僕の感情へ共感し、そこへ何らかの感情を産み出して欲しいのだ。

 

その願望を、上手く作品に落とし込めたな、と思った時、その作品は僕の中で傑作となる。
正直、作品の出来の良し悪しは二の次なのだ。

自分の趣味の話をすると、「多趣味だね〜」と言ってくれる人がたまにいる。
でも、多分、多趣味なんかじゃない。
僕の趣味は、全て、自分の感情を切り売りすることなのだ。
僕はこう思ったんだよ、僕は、僕は、僕は…ねぇねぇ、聞いてる?

小学生の頃。寝る前、ベッドの中で、物語を考えるのが好きだった。
魔法使いと剣士が旅をして、悪の親玉を倒す物語を繰り返し繰り返し考えた。
そこにあったのは、純粋な、ヒーローへの憧れだけだった。

 

いつから、自分の感情を切り売りするようになったのだろうか?

 

中学生の頃。寝る前に、必ず1時間ほど絵を描いていた時期が、真っ先に思い出された。
あの当時、行き場のない思いを、ひたすら絵にした。
でも、そこにあるのは優しい感情だけだったような気がする。
大好きな彼女に伝えられない思いを、ひたすら絵にした。

 

高校生の頃。毎日、ひたすら、全てから逃げるように絵を描いていた。
いや、実際、全てから逃げるために絵を描いていたのだ。

成績が悪い。大好きだった彼女に振られた。先生から怒られる。自分は馬鹿だとみんなが言う。
信頼できる大人がいない。毎日が生きづらい。受験をする前に、死んでしまおうか。

その現実から逃げるため、ひたすら絵を描いた。
なんでも描いた。
幸せな絵を描いた。不幸な絵を描いた。猟奇的な絵を描いた。不幸の裏の、"偽りの幸せ"の絵を描いた。

ひたすら描いた。
それは、現実から逃げるためであり、現実から逃げる自分を痛めつけるためでもあったように思う。

 

あぁそうか。中学生の時に軋み始めた歯車が、高校生の時に完全に狂ってしまったのだ。
中学生の時に、高校生の時に、油を差してやればよかったのだろう。
でもそれをする余裕がなかった。そうする術も知らなかった。
感情を切り売りして、自分の傷を抉ることが、快楽であり、歪んだ心の救いとなった。

だから、僕はいつでも不幸を求めたのかもしれない。
自分が不幸になる度、傷ついた心に気づく度、僕は何らかの快楽を感じていたのかもしれない。

 

最近の僕は、少しだけ、大人になった。
自分を傷つけることをやめた。
自分の傷を抉るような作品を作ることはいくらだってできたはずだが、僕はそれを選択しなかった。
自分でも少し不思議だ。

 

今、新しい漫画を描こうとしている。
もちろん自分の感情は挟まっているが、そこに自分の傷を抉るような内容はない。
そこに快楽を得られる要素がない。

「描けるけど、描いていてつまらなそうだなぁ」

まだ世に出ていない、大切なはずの作品に、僕はそんな一言を投げた。

 

快楽は、麻薬だ。

僕はその麻薬に助けられながら、何とか今日まで死なずに生きてきたことを思い出した。
もうそんなものがなくても生きてけるようになったけれど、
それでも快楽の"依存性"が、僕の作品を、生き方を邪魔してくる。

これは、「そんなもの」に頼って生きてきた、僕への罰なんだろうか。

 

我慢して、快楽を求めず、生きるべきか。
生きていけば、いつか、それを美しいものだと思えるのだろうか。
それとも、僕が大切にしていた、僕の美しい世界観がひとつ死ぬのだろうか。

 

やってみなきゃわかんないよ、と、誰かが言うだろう。

そう言われても、言われなくても、そうするしかない。
もう僕は自分を傷付けないし、自分に傷付けられたくないからだ。

 

お願いだから、快楽への中毒症状が消えても、僕の世界観は消えないでくれ。

この記事が、弔いの代わりとならないことを祈るのみである。

 

またね

今日でこの家のベッドで寝るのは最後です。

僕は相変わらず、元カノのBluetoothキーボードを勝手に使い、このブログを書いています。
あぁ、新居に行ったら自分用のキーボード買わなきゃなぁ、なんて思いながら、無駄に最後の1日を過ごしているわけであります。

 

この1年、いろいろあったなぁ。

なんて、色々思い出すと、確かにたくさんの出来事があります。
でも、たくさんなんて言っても、所詮は1年分なんですよ。
意外とすくねぇなぁ。思い出すこともそこまでねぇなぁ。と思いつつ、それでよかったね、と自分に言い聞かせたりしています。

 

僕は、ここ一ヶ月、大変お世話になった場所があります。
それは、近所にあるお寺です。
なんとか門があって観光客がいっぱい来る、そこそこ有名なお寺なのですが、
僕がよく行った平日夜はあまり人がおらず、落ち着いてお参りができました。

 

僕はこのひと月で、3度おみくじを引きました。

ここのお寺は凶が多いことで有名なのですが、僕はその3回とも吉を引きました。
なんだか、頑張れと、背中を押してもらっている気がしました。
帰り道、胸がいっぱいになって涙を流すこともありました。

僕はこの先も腐らずに頑張れると、思えるようになった一旦は、確かにこのお寺さんが担っていたと思います。

もう徒歩で行けないので、行く回数はグッと減ってしまうと思いますが、
それでも僕の帰るべき場所として、これからも年に何度かは参拝に行きたいと思います。

余談ですが、今日僕の目の前でお参りしてた目の前の若い女の子二人組、そして次の中年夫婦が、二礼二拍手一礼をしてました。なんでだよ。
さくらちゃんと一番最後に行った時も、僕が合掌している横でパンパン聞こえたなぁとかいう余計な思い出が思い出されました。
あんまり人の知らないことにちくちく言うの良くないと思うんですけど、普通に物悲しいなと思いました。

 

そんなことはどうでもいいんです。

 

この、1年分の思い出が詰まった家を出るのが、なんだかちょっぴり嫌だなぁと言う気持ちがあります。
この家を解約したら、さくらちゃんとの繋がりが本当になくなって、本当に関係が終わってしまうような気がしています。
(本当にも何も、もう終わっているんですが)

この住み心地のいい家と、おさらばしたくないなという気持ちもあります。
(だって僕自身には引っ越す理由がないし…)

でもきっと、単に、見慣れた景色を失うのが嫌なだけなのかな、と言う気もしています。
見慣れたベッド、見慣れた手作りの机。見慣れたハンモックに、見慣れたキッチン。そして見慣れた…。
見慣れたこの街と、さよならするのが嫌なのかもしれないです。

 

この街はなんでもありました。
少し歩けば大きなショッピングモール、もう少し歩けば有名なお寺、調理器具の並ぶ商店街、大きな公園、きれいな桜並木に大きな川、
天空へと伸びる巨大な塔、夜に光る歩行者用の橋、路上喫煙可のタバコ屋さん、おしゃれなお蕎麦屋さん、町の野球場……

こんな素敵な街を、離れる理由がないのです。
(家賃が高すぎて僕には住めませんでした。泣きそうです)

 

だから、僕は、この街にはさよならは言いたくありません。

またな!と、言いたいです。

また誰かと一緒に、この街に住んでやるからな!と、勝手に思っています。(一人暮らしには家賃が高すぎるため)
その時の僕はきっと、ひとまわりもふたまわりも成長していて、もうこんな悲しい思いもしないで済むようになっているでしょう。

 

だから、また帰ってきたときに、この街に何かが残っていたら、邪魔ですよね。

前回の引っ越しの時は、昔住んでいた街に全てを置いていこう、と思っていましたが、
今回は、全部次の街へ持って行こうと思います。

記憶なんて、たとえ必死に覚えて居ようとしても、簡単に指の間からこぼれ落ちていくようなものです。
だからきっと、肌身離さず持っていようとした方が、いずれ消えて無くなってくれるのかな、と思っています。

どんなに見慣れたこの家の家具の配置も、いずれ朧げになっていって、何をどうしたかなんて忘れていってしまうのでしょうね。
なんて、2人で作った思い出の机を目の前に、ボンヤリと思うのです。

 

長くなりましたが、引っ越し前夜の僕の気持ちは、これで以上です。

大好きな街。大好きだった街。大好きだった家。大好きだったひと。

 

またね。

 

テトラポッドとラストノート

昔の記憶。
肌に纏わりついた潮の不快感を忘れるような、幸せな記憶。

半年前に別れた彼女が、テトラポッドの上から降りれず、こちらを見ている。
恐る恐る手を差し出すと、彼女は安堵の表情を浮かべ、僕の手を取った。

たった数秒間の出来事。9年も前の過去。
でも、「彼女のことを思い出せ」と言われると、真っ先に思い浮かぶのはその記憶だった。
別れた後の記憶なのに、変だなぁ、と思いながら。
僕は、それを「懐かしむべき過去」として、三人称視点で、思い出すのである。

 

昔の記憶。
なんでもない日常、でも、確かに幸せだった記憶。

昔住んでいた街のスーパー。
魚を捌くのが得意な君は、鮮魚コーナーで足を止める。
魚を切り身以外で買う、いや、そもそも魚を買う発想がなかった僕には、とても新鮮な気持ちだった。
そして、魚を楽しそうに眺める君を、愛しく思った。

それが何月何日だったのか、季節はいつだったのか、全く思い出せない。
でも僕は、やはりそれを、「懐かしむべき過去」として、三人称視点で思い出した。

 

過去の君は、テトラポッドになったのだ。

 

昨日で、君は、この家を出ていった。
おそらくもう会うことはない。

 

最後の土日は2人で楽しく過ごそうと決めて、実際、楽しく過ごした。

 

一昨日は一緒に朝食を食べ、魚を捌いた。君は、僕の捌いた鯵を誉めた。
君は寿司を握り、僕へ振舞ってくれた。
夕食を食べ終わると、その足で近所の川まで、お寺まで散歩した。
幾度となく通った散歩道。僕はここに来られてよかった、と思った。

 

昨日も一緒に朝食を食べた。
出かける支度を終え、ベッドに腰掛ける。
「綺麗になったね」と、君は僕の頭を撫でた。
そして、ほんの少しの思い出話をした。
たくさん一緒にいたね。一緒に机を作ったね。一緒にホームセンターに行ったね。一緒にノートを作ったね。みかくんが椅子を組み立ててくれたね。
目に映るもの全てが思い出だった。君は泣いていた。僕も一緒になって泣いた。

 

そうして、買い物に出た。
君の好きな丸の内で、僕の腕時計を探した。プレゼントするね、と言ってくれたことを、僕は嬉しく思った。
君にもらったこの時計に、僕は、僕の成長と幸せを誓おう。この時計を見る度、前向きな気持ちになれるように。

そして、最後、2人の共通の貯金を使って、丸の内の35階でフレンチを食べた。
フレンチを食べながら、君に何か話す度、僕は涙を流した。
デザートに差し掛かるころ、店員さんの好意で、窓際に移動させてもらった。
35階から見た東京の景色は、あまりにも綺麗で、僕は涙が止まらなくなった。
僕が東京の夜景を見たのは、去年の3月14日、君と付き合った日が初めてだった。その夜景と、重なった気がした。

デザートの味もわからないまま、食事を終えた。

 

もう少し話したくて、僕らは、遠くの駅まで少し歩いた。
君は僕の腰に手を回し、「好きだよ」と言った。「僕も好きに決まってんだろ!」と、頭をごつんとぶつけ、笑いながら返した。

人形町の駅の入り口。そこが、僕らの別れの場所だった。
あんまり長居しないからね、と、やはり腰に手を回しながら君が言うので、僕はさっさと手紙を渡した。
君は手紙を受け取ると、僕に握手を求めた。「今までありがとう」。僕も君も、力一杯握手をした。これが別れの儀式だと悟ったからだ。

そうして君は、最後に一言、「またね」と笑顔で言った。僕も「またね」と笑顔で返した。

 

帰宅した僕は、広くなったベッドに横になった。
実家から連れてきたポケモンのぬいぐるみが目に入る。
「今朝、ぬいぐるみに、『後は頼んだぞ』って声をかけようとしたんだけど、口に出したら涙が出そうで、言えなかった。だからその代わり、ポンポンしておいた」
君が夕食中、そう言ったことを思い出した。
こいつには、君の気持ちが宿っている。そんな気がした。

夢に君が出てきたらどうしよう、と思いながら、僕は眠りについた。
手首につけた君の香水は、なんだか知らない香りがした。

 

 

そして今朝。

君の夢は見なかった。

起床時間より2時間早い、朝の5時半に目が覚めた。
寂しさで目が覚めた、と、なぜか僕は思った。

そして、そう思った途端、昨日の記憶が洪水のように溢れ出してきた。

全てが一人称目線だった。

台所に立つ君。思い出話で涙する君。新丸ビルで家具屋さんを見る君。フレンチを食べる君。「またね」を言う君。
思い出す度に愛おしくて、胸が苦しくなった。

 

これはまだテトラポッドじゃない。
涙を流しながら、僕はそう思った。

 

早くテトラポッドになってくれ。
昨晩つけた香水は、僕のよく知っている香りがした。

 

ラストノートしか知らなかったのか、と思った。
僕がプレゼントした香水を思い出す。

 

きっと僕は、あのバーバリーの香水の、トップノートしか知らない。
幾度となく玄関で香ったあのスパイシーな香りは、一体どんな最後を迎えるのだろう。
もう知り得ないと思うと、また胸が苦しくなった。

 

 

昨日の思い出も、未知のラストノートも。

 

いつか、テトラポッドになるだろうか。

ありふれた別れの手紙

ありふれた別れ方をした、ありふれた恋人たちの、ありふれた別れの手紙。

 

 

 

 

さくらちゃんへ

 

お手紙読んでくれてありがとう。
今日は8/28(日)、さくらちゃんはお出かけ中で、夕方には帰ってくるそうです。
さくらちゃんの彼氏として、最後に、思っていることを伝えさせてください。
長くても、どうか最後まで読んでね。

まずは、さくらちゃんに、ありがとうを言いたいです。

入社式の時に話しかけてくれたこと。みかくんって呼んでくれたこと。LINE通話で自作の棚を見せてくれたこと。
些細なことだったけど、すごく嬉しかったです。

同じ案件になってからは、たくさんご飯食べに行ったね。
あの頃、出社するのが辛くて、さくらちゃんだけが、僕の唯一の心の支えでした。

そして、さくらちゃんと付き合ってから、僕の人生には、ぱっと色がついたみたいでした。
さくらちゃんと出会って、いろんなことを知りました。
行きたいところには行けばいいこと、欲しいものは、いろんなお店を見て、選んで買えばいいこと。
誕生日は素直に祝われていいこと、たまたま見つけたお店に入ると楽しいこと。
辛い時は外に出てみるといいこと、男性でもレディース小物を持っていいこと…
さくらちゃんに出会わなければ、付き合わなければ、そして別れなければ、こんな素敵なことに気づけてなかったと思います。

だから、ありがとう、と言わせてください。

 

僕とさくらちゃんは、多分、根本的なところが合わなかったのかな、と思ってます。
それでも僕はさくらちゃんが大好きだったし、それ以上に、さくらちゃんと過ごす日々が大好きでした。
だから、僕からは、別れを切り出すことはできなかったと思います。
どんな形であれ、別れる選択肢をとってくれたことには、感謝しています。

なんだか、僕、さくらちゃんに与えてもらってばっかりだったね。
僕はさくらちゃんに、何かあげられたでしょうか?さくらちゃんはそれで人生が豊かになりそうでしょうか?
もし、そうだったら、一緒に過ごした日々が無駄じゃなかったら、嬉しいです。

きっと、ここで過ごした日々のこと、少しずつ忘れていくんだと思います。
でも、残った思い出が、ふと、思い出されたとき。
さくらちゃんの記憶の中の僕には、笑っていてほしいなぁ、って思ってます。
だから最後は、楽しく過ごそうって決めてます。
さくらちゃんの思い出に残るみかくんは、2人は、笑っていますか?
(もしかしたら、あと一週間で大ゲンカ…とか、ないよね。笑 たのしかった、よね?)

いつか、数年後でも、会うことがあれば、「一緒に住んで住んでたとき、楽しかったよねー!」って、
笑い合えるぐらいの、そのくらいの関係性でいて、そのぐらいの楽しい思い出が残っていたらいいなぁ、って、勝手ながら思ってます。

 

…たぶん、まだまだ、伝えたいことはたくさんあるんだと思います。
この手紙も、草案からだいぶ削って削って、今の長さになってます。
まだまだ、ありがとうも、好きも言い足りない。思い出話もしたい。僕の人生相談にも乗ってほしい。
でも、終わりが来たのなら、しょうがないです。下手だけど、折り合いはつけてるつもり、です。

さくらちゃんが、「仲の良い同僚に戻ろう」と言ってくれたので、
さくらちゃんがこの手紙を読んでいる今日、この日を以て、昔のように同僚に戻ろうと思います。
さくらちゃんと一緒に過ごした、会社での、僕の家での、2人の家での日々は、鏡花水月、愛すべき思い出として、心の中にしまっておこうと思います。

 

 

今まで、こんな僕と、一緒にいてくれてありがとう。
これからは、元通り仲の良い同僚として、よろしくね。

さくらちゃん。大好きだったよ。

 

みかくんより

バッドエンドは想定通り

去年の5月。
ゴールデンウィークは、君と一緒にチーズケーキを作ったり、クッキーを作ったりした。
見慣れた街は、色鮮やかに輝いて見えた。

それは紛れもなく、君のおかげだった。

そんな輝いた世界の中で、僕は、一つの記事を更新した。
https://15222.hatenablog.com/entry/2021/05/05/132217
可愛い彼女の、愛しい寝顔の先に、僕はバッドエンドを見ていた。

後にも先にも、彼女について更新したのは、この記事だけだった。

 

そして数ヶ月、彼女は心の病を患った。
僕らは2人で部屋を借り、2人で新しい日々を過ごすことにした。
そして数ヶ月、彼女は休職をした。
目まぐるしく環境が変わる中、いつしか、バッドエンドのことは忘れていた。
このまま幸福な日々が続いて、僕らは一つの家庭を持つのだ、と信じていた。

 

その日は突然やってきた。
彼女が支離滅裂な理由で、僕に別れを告げてきた。

 

度重なるタクシー帰り、机上に置かれ出した精力剤。ポーチの中の異性からの手紙、誰かの名を呼ぶ幸福そうな寝言。
それらが、洪水のように僕に襲いかかる。

ここ一ヶ月の彼女の行動履歴を見る。位置情報は、平日22時にビジネスホテルを指していた。
なるほど、それでタクシーで帰ってきていたのか。
僕がそれを確認している時分、彼女の位置情報は、某所のリゾートホテルを指し示していた。
(あぁ、実家に帰るって、嘘だったのね。)

新しい男の人とのLINEも見た。
付き合いたての男女の、幸福そうな会話がそこにはあった。

僕と彼女が2人で作った餃子の写真。「見て見て、作ったの!」という一言と共に、送信されていた。
冷凍庫には、食べきれなかったその餃子がまだ残っている。
幸福な僕が作った、愛しいはずの餃子に、僕は強い嫌悪感を抱いた。
(悩み抜いたが、後日ひっそり、餃子をゴミ箱へ捨てた。)

 

 

でも、僕の気持ちは、どこか落ち着いていた。

なぜか?

僕は見ていたからだ。

僕らの行き着く先の「バッドエンド」を。

 

僕がこの感情を受けるのは、至極当然だった。
いや、受けなければならなかった。
それが因果応報というものなのだ。
僕は、甘んじてそれを受け入れる義務があるのだ。
今、この瞬間で、僕の罪は精算されたのだ。

どこか、清々しい気分でもあった。

 

僕が以前やったことが、丸々、自分へ返ってきた。ただそれだけだった。
逆にそれでありがたかった。
こんな時、僕は、恋人にどうして欲しかったかを知っている。
こんな時、僕は、どれだけ苦しくて、どれだけ幸福な気持ちなのかを知っている。
こんな時、僕は、もう恋人に心が戻ることがないのを知っている。

こんな時、僕は、おとなしく別れを受け入れるのが最善だと知っている。

 

周りの人には、「できた人間だね」とか、「優しすぎる」とか、「もっと怒った方がいい」と、いろいろ言われた。
そんなんじゃない。

己の欲せざる所、人に施す勿れ。

太古の昔に孔子が、そして、ふた昔前に父親がくれた教え。ただ、それに従っているだけであった。

 

あと、もう一つ、僕には思惑がある。

「僕と別れてよかった」と、彼女に思われたくない。

 

昔、浮気をして別れた彼女は、新しい彼氏がいる中、僕に連絡をとってきた。
「ねえ、セフレでいいからヤらない?」
僕が嫌だ、と答えると、とある材料を使って僕に脅しをかけてきた。
最悪だ。
結局その彼女にはSNSを全てブロックされた。

 

そして、僕が浮気をして別れた彼女は、とにかくもう大変だった。
別れた僕は、それを受け止める義務があると思った。

あなたのことを殺したい。新しい彼氏ができそうだから、彼への誕生日プレゼントの相談をしたい。
あなたのことが忘れられなかったから彼からの告白は断った。一緒過ごした5年間は、金と時間の無駄だった…。

言い合いにもなった。これから先、関係を構築しようとしていない相手と言い合いをするのは、とんでもなく無益だ。
それを彼女は理解していなかったようだ。
彼女は、少し人間性に問題があったように思う。(サークルの同期に嫌われていたのが、その証明だろう)
人間性の酷さに、愛情がなくなった僕は耐えきれなかった。

結局僕は、SNSを全てブロックした。

 

この2人とは、正直、別れて良かったなぁと思っている。
特に後者の方は、別れた後の暴れっぷりが尋常じゃなかった。
2人とも、楽しい思い出があるから一緒にいたはずなのに、思い出すのは全て悪い思い出だった。

僕は、そうはなりたくない。

彼女(さくらちゃん、と仮置きしましょうか)が思い出す僕との思い出は、幸福なものであってほしい。
彼女に、浮気をして別れた理由を、「僕の人間性」によって正当化されたくない。
幾度となく彼女を助けた僕のやさしさを、いつか、噛み締めてほしい。
自分の至らなさを、反省してほしい。

 

そのためには、僕とさくらちゃんとの最後の記憶は、「やさしいもの」にしなくてはならない。
僕はとにかくさくらちゃんを肯定した。
さくらちゃんをの新たな恋を受け入れた。
いつも通り、楽しく、一緒に過ごした。
浮気を告白してくれたその日以降、一度も、浮気した事実を責めなかった。

さくらちゃんに、「別れてよかった」と言わせないために。

 

 

長くなりましたが、まだ続きます。
これは自分の気持ちの整理のためと、備忘のためです。

どんなに苦しい感情も、月日が経てば忘れてしまう。
文字に残せば、過ぎし日の感情に触れられる。
だから、僕のメモ帳に、もう少しお付き合いください。

 

僕は、元恋人の幸福を祈ることができない。

元彼女のあきちゃんも、さくらちゃんも、「心奏くんには幸せになってほしい」と、言ってくれました。
でも僕は、全くそうは思えません。
あきちゃんも、さくらちゃんも、不幸になってほしい。

だから僕は、会話の端々に、遅効性の弱毒を混ぜる。

「精神科の通院サボっちゃって、そこから行ってないの?でももうさくらちゃんは治ったから、大丈夫だよ!」
(完治は存在しない、症状が寛解しているか分からないよ。だから、また予約入れ直して、通院しなきゃダメだよ!)

「有給なのに今日はお仕事するの?忙しそうで大変だね、、がんばってね!」
(有休に仕事するの?!休みの日は仕事しないって話だったじゃない、無理しないで!今日は休みな!)

「結局自分が黙ってお仕事引き受けて、他の人に回せないんだね。。でも自分がやりたくてやってるんならいいね!」
(それだとさくらちゃんの負担が増えちゃうから、どうしたら他の人にやってもらえるか、ちょっと考えてみようよ。1人で背負っちゃダメだよ!)

不思議と、すらすらと口から出る。自分の心とは正反対の言葉。
ああ、僕は、この人のことを心の底から好きと言えなくなったんだな、と。
そう思って、嬉しいのか、悲しいのか、分からない感情になった。

 

 

 

話がだいぶ脱線しました。

 

とにかく、僕は、去年のゴールデンウィーク、幸福の最中で見つめた未来に、いま辿り着きました。

もし僕が、自分の行いに責任と覚悟がもてない人間だったら。
きっと今頃、烈火のごとく怒り狂っていたことでしょう。
さくらちゃんを責め、嫌味を言い、もしかしたらあきちゃんみたいになっていたかもしれませんね。

でも、僕はそうじゃない。

因果応報として受け入れた。
この1年半に意味を見出し、過去ではなく未来を見つめている。
僕は、この1件を通して、自分のことが少し好きになりました。

 

終わりはバッドかハッピーか。

答えはバッド。

昔の自分、バッドエンドを描いてくれてありがとう。
今の僕が、こうしていられるのは、多分そのおかげです。

答えはバッド。

されどハッピー。
だと、思うように。
前を向いて、これからも生きていきます。

この街に置いていく

明後日引越し、実感/ZEROの心奏です。

という訳で、4年間ぐらい住んでた家を出ます。

 

と言っても同じ都内なので(電車で普通に行ける距離なので)、完全にめちゃくちゃ寂しい!!という訳では無いのですが。

それでもやっぱりなんだか、しんみりするものです。

 

家にあるものをゴミ袋に詰めながら、ふと、

(あの人とここにいた思い出も、捨てていくんだなあ)

と思いました。

元カノと過ごした日々。

この街に捨てて、新しい思い出で埋めよう。

 

なんて思いながら、燃えるゴミ袋を縛り終え、次は粗大ゴミ。

アルバイト先から貰った馬鹿でかいトロフィーを動かしながら、ふと、思い出す人がいました。

(あの人と働いた思い出も、捨てていくのか)

香澄さん(2020年3月の記事参照)のことです。

懐かしい名前に、僕はしばし片付けの手を止めました。

 

香澄さんは、バイトを辞めたあとも、ちょこちょこ飲み会を開いてくれていました。

それもきっと、僕が引っ越したら行けなくなるんだろうなぁ。

そうしたらきっと、あの人も、この街に…

そう思うと、なんだか、昔の思い出が蘇ってきました。

 

 

彼氏いない歴=年齢の香澄さんに、初めて彼氏が出来た日。

香澄さんは、僕に報告のLINEを送ってくれた。

「すごいじゃないですか!」なんて送りながら、本当は、少し苦しかった。

 

香澄さんの留年が決定した時。本当は、僕は嬉しかった。

あと1年一緒にいられる、と思うだけで、僕の生きる支えになった。

あなたがいないこの職場は、きっと僕にはつまらないから。

 

香澄さんが彼氏と別れた時。

「え〜!」なんて驚きながら、やっぱり、どこか嬉しかった。

香澄さんが独り身になったところで、僕は何も出来ないのに。

それでもやっぱり、僕は嬉しかった。

 

出勤最終日、お客さんが置いていった送別の手紙。

そこには歯が浮くような愛の言葉が、ビッシリ書き連ねてあった。

香澄さんは、笑いながら、それの名前を全部「心奏」にして読み上げてくれた。

気持ち悪い!なんて言ったけど、本当は、すごく嬉しかった。

嘘でも、僕に好きと言ってくれたから。

 

 

…なんて思い返してるうちに、僕はあることに気づきました。

元カノの写真は全部消したのに、香澄さんの写真は全部とっておいてるな、と。

香澄さんの写真も、香澄さんが撮ってくれた僕の写真も。

 

(そうか、)

 

やっぱりあれは、気の迷いなんかじゃなかった。

(彼女がいた僕は、必死に理由をつけていたけど、)

 

やっぱり僕は、香澄さんが好きだった。

(取り繕う必要がない今、分かるのは、)

 

やっぱりあれは、

(やっぱりあれは、)

 

叶えなかった、恋だった。

(紛れもなく、恋だった。)

 

 

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元カノへの配慮をしなくて良くなった今になって、ようやく、あの時の気持ちを受け入れることが出来た気がします。

あれは紛れもなく、僕の人生で1番の恋だった。

元カノよりも、香澄さんに恋をしていた。

陳腐な表現だけれど、本当に、甘くてすっぱい恋だった。

そう受け入れて初めて、この恋が「終わった」ような気がしました。

 

 

 

あなたと働いた日々も、伝えなかった気持ちも、もう訪れない未来も、全部。

 

――全部、この街に置いていこう。

終わりはバッドかハッピーか

GW真っ只中、心奏です。

 

僕が机に向かっている横でスヤスヤ寝ている彼女のことを見ていたら、なんだかブログが書きたくなってここに来ました。

 

突然ですが、僕は浮気とか不倫とか、そういう話を見るのが好きです。
正確に言うと、それで浮気した人の人生が転落していく様を見るのが好きなんです。

あれだけ恋人のことをコケにしていたのに、いざ別れるとなったら「行かないで」と言ってみたり、逆上して怒鳴ってみたり…
不倫の場合は慰謝料取られ、親と縁を切られ、間男に逃げられ……等々

やはりそれは因果応報で、悪いことしたやつには必ずバッドエンドが待っている。そういうもんだな、と思うわけです。

 

と、彼女に言ったら、「でもみかくんも浮気したでしょ?」と笑いながら言われた。(前の彼女を捨てて今の彼女と付き合ったので)

まさにその通りなんです。

 

だから、僕にもバッドエンドが待っている。

 

それはいつ、どういう形で起こるか分からないけど、必ず何かになって返ってくる。
彼女が別の人を好きになるだとか、「心奏とは一緒にいれない」と言われるだとか。

でも僕は、それ込みで今の彼女と付き合う決断をした。

もしすぐに別れることになっても、「あぁ馬鹿な選択をしたな」で終わらせよう。
付き合うかどうか迷っていたあの時、僕はそういう気持ちでいた。

 

という話をすると、彼女は悲しそうに、「私はハッピーエンドしか見えてないよ」と言った。
僕もハッピーエンドがいいさ、と慌てて言った。